変性意識とバーストラウマ
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Vol.1非日常意識
Vol.2 出生外傷(バーストラウマ)
Vol.3 困難なことがあっても大丈夫
Vol.4 分娩室の時限爆弾
Vol.5 母と子のきずな
Vol.6 自然出産とテクノロジー出産
Vol.7 失われたきずな
Vol.8 魂の流浪者
Vol.9 旅立ちと帰還
Vol.1 非日常意識
人の意識は大きく分けて2つある。日常意識と非日常意識である。非日常意識は変性意識ともいう。人間には異なった意識モードが存在するのだが現代社会の非日常意識の認識は酒に酔ったり夢を見たりする状態しかしられていない。仏教やヨーガではもっと異なる意識モードが語られているが一般の人々にはほとんど認知されていない。
様々な意識モードの体験がない人には非日常意識の状態はにわかに信じがたい話だが臨床例として実際に起きている実例である。 1970年代から西洋社会では非日常意識の研究が盛んになり、その変性意識状態は徐々にではあるが知られるようになって来た。
S・グロフの研究によるとブレスワーク中の変成意識は次の四つの領域に分かれる。
1、感覚的領域
2.自伝的無意識の領域
3.出産前後または分娩前後の領域
4.トランスパーソナルな領域 である。
1、感覚的領域
身体の感覚器官が活性化して起きる比較的浅い領域。
鈴の音が聞こえる。光が見える。匂いがする。
体の中で動くエネルギーの流れを感じる。
痺れや痛みの感覚。
2、自伝的領域
生まれてから今までの人生で何か理由があって忘れていて抑圧され
ていた無意識の体験 認識していなかった感情や痛み、誰かにひどく
傷つけられた経験、解決のついていない問題、否定的な条件付けが起
きた根源の記憶が浮上する。恋やロマンスの成就、望んでいた欲求が
満たされた経験、人生の中で一番光り輝いていた経験もある。
3、出産前後または分娩前後の領域
子宮-産道-誕生というプロセスをたどる。胎児だったとき、親が話
したことを聞いていて受けた精神的影響や、産道を通って出産した体
験の領域、誕生直後の体験など。
4.トランスパーソナルな領域
死と再生の体験を経たのちに表れる個人の境界を越えた領域、ユン
グ心理学の元型や集合無意識の領域、無限の可能性を秘めた領域
胎児、精子、卵子との一体化、祖先の生活の記憶、進化の系統の遡り、動物、植物、鉱物との一体化、身体離脱体験、祖先の霊、親しい知人の霊、精霊や神的存在との遭遇、人類・民族の集合無意識、過去の世での体験、ESP現象、クンダリニーの覚醒とチャクラの活性化、惑星意識との融合、 星の誕生と消滅 宇宙との融合体験などがある。
Vol.2 出生外傷(バーストラウマ)
この出産時に起きるトラウマを出生外傷(バーストラウマ)と言う。グロフはこの「基本的分娩前後のマトリックス(Basic Perinatal Matrix略してBPM)」を四つの段階に分けている。
● BPM1母親との融合 出産が始まる前の子宮の状態
羊水の中で静かで暖かく安全で栄養と酸素が与えられ、なんの心配もいらない天国の状態。
対応する心理学的傾向
無条件の愛、一体感、永遠の至福、大洋的エクスタシー、母なる自然のヴィジョン
否定的な子宮
母親の病気、妊娠異常、アルコール中毒、精神異常、情緒不安定、中絶の試みなど、両親から望まれない妊娠、両親が思った胎児に対する否定な考えは胎児にとって天国ではなく否定的な子宮を意味する。
否定的な子宮によって受ける胎児の影響
悪魔的実体への強迫観念、不愉快な身体感覚、嫌悪感、世界に対する脅威
● BPM2子宮口が閉じたままの子宮の収縮
出産がはじまり全方位から胎児が締め付けられる。子宮から閉め出されそうになるが子宮口が閉じているため出られない。出口なしの状況。
BPM2に対応する心理学的傾向
旋風や渦巻きに巻き込まれたり、クジラやタコなど大型動物に飲みこまれたり吸いこまれる体験 、苦痛に満ちた罪悪感や劣等感、永遠の罪、無力感、楽園からの追放、人間存在の愚かさや無意味さ、孤独、虚無感、地獄のイメージ、耐えがたく終わることない状況、自由が脅かされる体験、罠や監獄に閉じ込められた感覚、肉体的拷問、麻薬中毒など
● BPM 3産道の通過
子宮の収縮が続き、子宮口が開き産道を通過する体験。もっとも困難で苦痛に満ちた体験、産道の締め付けに押しつぶされそうな体験、窒息しそうな体験 胎児は、刻々と姿勢を変え、苦痛に満ちたこの窮屈な状態から逃れようとする。自分が死につつあるというリアルな感覚を体験する。
BPM 3に対応する心理学的傾向
自己破壊的衝動、攻撃性、生存のための熾烈な戦い、窒息、虐待、暴力的性衝動、倒錯的傾向、サド・マゾ、糞便嗜好、火による浄化のイメージ、
● BPM 4 出産 母親からの分離
緊張と苦痛が徐々に高まりそして突然の解放とリラックス輝く光や美しい色彩のヴィジョン、再生と救済の感覚、苦行を乗り越えたという達成感、天上的なエクスタシーなど
Vol.3 困難なことがあっても大丈夫
グロフの研究が明らかにした出産プロセスはその人の人生のパターンに繁栄されると言う。
出産プロセスがスムーズに進行して、出産後も母親の胸に抱かれるなどして赤ちゃんへの気くばりが十分行き届いていれば、様々な苦悩に襲われても最後は必ず終了しもとの安心した平和で安全な状態にもどれるという確信と自信が生まれる。人生でどんなに困難な状況でも必ずそれを克服出来るという信念が生まれるのである。
全身麻酔で生まれた場合
強い全身麻酔で生まれて来た人は物事をやり遂げる時に困難を生じるという。最初は熱心に取り組んでも後半になると集中力を失い、エネルギーが落ちてしまうのである。一つのプロジェクトを完了させるという達成感を体験できないのである。
鉗子が用いられた場合
出産時に医者の介入によって鉗子が用いられた場合には何かを始めるときに最初はエネルギーがあっても完了直前に自信を失い最後の一押しを誰かに頼らなければならなくなる。誕生時に促進剤などの薬物で生まれた人は自分に準備ができたと感じるまで何かに参加する事を嫌う。そうでなければ押しつけられている様な感じがしてしまうという。
帝王切開の場合
帝王切開の場合は正常の分娩と違いBPM2と3を経験しない。外科手術の麻酔が効いたまま血まみれのまま取り上げられる体験をする。帝王切開は正常な出産と違い、子宮に締め付けられ狭い産道を通り抜ける困難さを克服する体験を得られない。帝王切開の人は正常出産と比較するかのように過ちの感覚を抱くと言う。また回りに過剰に期待したり場の雰囲気を読めなかったりする人もいる。なんでも手に入れようと過剰な欲求に走り、それに対する回りからの反発で傷つくことがある。
BPM1〜4 までの出生プロセスは人生で最初の命をかけた挑戦だ。もし出産が長引いたり、気絶して仮死状態になって生まれたり、帝王切開で生まれてしまうと 大切な産道を通り抜ける BPM ? の経験が得られない。困難な物事に挑戦して最後までやり遂げる経験がないまま生まれてしまうのだ。挫折感を持ってしまった出生プロセスはその後の人生に多大な影響を与える。
出生後、赤ちゃんが愛と思いやりをもって扱われればこの外傷は癒される。「恐ろしい事や取り返しのつかない様な事が起きたように思える事があってても何も起きなかったようだ。大変だったけどまたお母さんの愛に包まれている。これが人生なんだ。どんなに困難なことがあっても大丈夫、再び元のなんの心配もいらない所にもどることができるんだ。」このような人生の青写真を受け取る事が出来る。
Vol.4 分娩室の時限爆弾
J・C・ピアスによると病院の分娩室で起きる影響は時限爆弾のように長い年月をかけて進行して多様な被害と災いを広く及ぼすという。誰もその問題の根源に気がつかないのである。
現代の完璧な医療処置の問題点は自然に反するテクノロジー分娩にある。病院では分娩を早める為に人工破膜が行なわれたり、精神安定剤や沈痛剤が使われたりする。産婦の下半身を麻痺させる為に入れられる麻酔は血圧が低下する人がいるので今度は点滴が必要になる。その結果、子宮収縮を促す合成ホルモンの陣痛誘発剤ピトシンが使われたりする。子宮口が開き胎児が降りて来ても麻酔の為産婦はいきみの感覚がつかめなくなる。そこで鉗子が使用されるケースもある。胎児を出やすくする為の会陰切開は女性に痛い思いをさせるばかりではなく性的な問題に悩まされる人もいるという。欧米では帝王切開は収入増につながる為帝王切開率の上昇も問題にされている。
以上ミシェル・オダンの「バース・リボーン」から引用したが彼の病院の帝王切開率は6~7パーセントなのに他の病院の平均は20パーセントになるという。 日本の帝王切開率は約20パーセントである。ブラジルのある病院は80パーセントを占めると言う。
帝王切開率がなぜ多いのかオダン博士は産科医の教育制度に問題があると指摘している。異常出産の勉強ばかりして長時間の正常出産の訓練が十分されていない。赤ちゃんが死亡した場合、「なぜ帝王切開しなかったんだ。」と訴えられる法律的なリスクもあるという。
赤ちゃんの災難
眩しい手術用の照明は赤ちゃんの目が焼け。騒がしい声が飛び交う分娩室は耳をつんざく轟音に聞こえる。そしてすぐに切断されるへその緒は脳にダメージを与えてしまう。
ウィンドルという医師は妊娠している猿に現代医療と同じ処置をほどこした。母猿に麻酔を打ち、人間とおなじようにへその緒をすぐに断ち切ったのである。猿の新生児は呼吸困難に陥った。自然界の猿は生まれてすぐに母猿にしがみつき、数時間後には歩けるようになるという。自分の足で立ち、辺りを飛び跳ねる。
ところが現代医療をほどこした猿は母親にしがみつく事も出来ず、自分の足で立つことも出来なかった。母猿は麻酔でぼうっとなって赤ちゃん猿を助けることもできなかった。小猿が歩けるようなるのに2〜3週間かかったという。
麻酔で無力に陥った子猿達の脳を調べた結果、脳に損傷が見られたと言う。近代文明の病院ではよく赤ちゃんに蘇生術をほどこす。麻酔でぐったりした新生児の足をつかみ逆さまにして叩いて呼吸を回復させようとするのだ。プルドウ大学のケファート博士の研究によると調査した20パーセントの子どもに目立たない脳の損傷がみられ、それが原因で学習と行動に問題をきたしていたという。
生まれたばかりの赤ちゃんは臍の緒を切られてやがて母親からはなされる。保育室へ連れていかれ一晩中孤独にされる。天国は失われ二度とあのような状態は望めないというメッセージを赤ちゃんはうけとる。宇宙は好意的ではないのである。そして無意識の中に敗北感、困難に対する自信の喪失感が刷り込まれるのである。
Vol.5 母と子のきずな
インドの女性は出産まじかになると産屋に姿を隠す。立派な子どもが生まれると子どものいない他人からの嫉妬から呪いをかけられると言うタブーがあり、夫は妻を隠すのである。この習慣はかなり厳格に守られており部屋が一つしかなければ家族は路上に寝起きしても妊婦に部屋を提供するのである。その中で妊婦は産前一週間、産後三週間籠る。夫以外の男性と他人の女性も出入り禁止、お産の世話は母親ではなくて叔母さんか祖母とということになっており、赤ちゃんは産婆さんが取り上げる。このように出産に携わるのは女性に限られており、金持ちも貧しい人も産屋で産婆さんが取り上げた。
インドでは出産はとても神聖な行為と考えられており、生まれてくる子どもに不快と感じされるものはいっさい避け、できるだけ体内に近い環境をつくるのである。特に男性を避けるのは男性は荒々しいので赤ちゃんには刺激が強すぎる。男性は赤ちゃんからみれば、巨大な怪物にみえ、それが甲高い声で笑ったり、動き回ったりすれば、赤ちゃんは恐怖をいだく。赤ちゃんのびくつきはせっかくその子に与えられていた大切なリズムを崩してしまい、その子の神経に刻み込まれてしまうとインドの人は信じている。産屋に妊婦の母親を入れないのは娘の出産に冷静ではいられなくなり興奮して騒いだことがあってそれがタブーとなったのでははないかと考えられる。産屋は暗く静かに保ち、母親の胎内に出来るだけ近い環境の中で三週間母親と赤ちゃんは過ごすのである。
アメリカ先住民のオライビのホピ族にとっても出産は神聖とされ陣痛時には母親が付き添うが分娩時には誰も家に入ってはならず一人で出産する。そのあと母親が胎盤を除く為にもどり、それを神聖な丘に埋めに行く。妊婦は20日間家を出る事が出来ない。
オーストラリアのアボリジニの母親は出産が近づくと部族から離れて一人になり、砂に穴を掘って、その上にしゃがみ込み出産する。
ウガンダの母親は赤ちゃんが生まれる5分ほど前まで日常の仕事をしている。出産間際になると一人になってしゃがみ込み赤ちゃんを生む。そして一時間もすれば仕事を始めるという。母親は裸の胸にぶらさげた吊り帯の中におしめをつけずに赤ちゃんを入れ、たえず、さすり撫で、唄い絶対に赤ちゃんと離れる事はないという。母親は胸に抱っこをして、いつも、つれて歩くので、赤ちゃんは絶えず裸で母親と接触して皮膚の刺激を受けることによって常にマッサージを受けていることになる。
アフリカの狩猟採集民族のスワジ族の母親は赤ん坊のおしっこや排便の時間を事前に察知するという。母親は赤ん坊のあらゆる状態を事前に察知して、その子の要求をかなえるのだった。西洋人がどうして赤ちゃんの欲求がわかるのか尋ねると母親は不思議な顔をして「あなたは自分がおしっこをしたくなるときわからないのですか?」と答えたと言う。
母親と子どもはきずなで結ばれているのである。きずなとは非言語的なコミュニケーションの一種で通常の合理的思考や知覚を越えて直接働く親交のことである。
きずなの研究をしたオハイオ州、K・W・リザーブ病院のクラウス博士によると正しくきずなで結ばれた子どもは知的で穏やかで幸福感に満たされ、決して泣かないと言う。
Vol.6 自然出産とテクノロジー出産
マルセル・ジーバーが行なった非テクノロジーの文化圏であるウガンダの自然出産の子どもと欧米諸国のテクノロジー出産の子どもの比較研究がある。
欧米の研究者は新生児が平均して2ヶ月半過ぎないと笑わないことを観察した。生後2ヶ月までの赤ちゃんは眠るか泣くか乳を飲むだけだから生まれて間もない赤ちゃんは知能が無いと結論をつけたのである。この赤ちゃんが未熟で無能力であるとの観察結果は常識となった。ただしこれはテクノロジー出産の子どもの研究結果なのである。
ケニアとウガンダの赤ちゃん達は少なくとも生後四日目には笑い出し、これまでどこにも観察されたことがないほど、早熟で賢く、知能の進んだ幼児達だった。 赤ちゃんはすべて、母親による自宅出産で、母親から一日中、離されることはない。
自然出産の赤ちゃんは四日目の血液検査で出産ストレスをあらわす副腎皮質ホルモンは全く表れなかった。生後48時間後には腕を支えるだけでまっすぐお座りが出来、背中はピンとのび、首もすわっていた。顔は素晴らしい知性で輝き、自分の意志で母親をまっすぐに見て焦点が定まり、こにこと笑って顔は知性に輝いていた。生後4年目まで西洋の子どもたちよりも知的優位性が保たれていた 。
出産の医療化
アメリカでは19世紀から出産の医療化がはじまり20世紀のはじめに産婆の助産と逆転する。ナースミッドワイフという医者の補助職の養成が行なわれ、戦後日本に進駐したGHQによる病院出産が日本での出産のあり方を変えたのである。母子が引き離され、化学薬品と手術による出産の暗黒時代がはじまったのである。
女性は出産前と後では体の状態が変化する。出産後は赤ちゃんの欲求にあうように母親の体は変化して睡眠が分割睡眠になる。ところが夜に長時間眠らないと疲れがとれないと思い込んでいる母親は「夜も起されてノイローゼになりそうだ。」と訴える。短時間で熟睡する分割睡眠でも意識が睡眠不足だと思ってしまうのだ。体の実体にこころをあわせられないのだ。母と子が同じ睡眠パターンになっている事を聞いて理解した母親は安心して夜に母乳を与えることも苦にならなくなる。母と子は一緒に過ごすように自然界はできている。
年間120万人近く出産する人のうち母子が同室している所は一割にもみたないと言われている。細菌感染と産後の疲労を理由に母子は引き離されている。医療関係者はそう信じている。そして新生児を一括管理した方が人件費も少なく効率がいいのである。
昭和40年頃、夜中の2〜4時の出産が70パーセントだった。ところが昭和60年頃に陣痛誘発剤が出て来ると夜間の出生率は30パーセントに下がり、昼の出産が当たり前になってしまった。そして年末年始、日曜祭日の出産も極端に下がった。現代は医者がモニターを見て人間が出産を管理するようになったのである。
ある精神病の患者は「わたしには発信器が埋められ、私の思考が盗まれている。私は監視されている。誰かに見られている。」と医者に妄想を語った。しかしこれは発信器をつけられモニターで監視される現代の胎児にとっては妄想ではなくて事実である。
Vol.7 失われたきずな
ファンツ博士によって生まれたばかりの赤ちゃんがお母さんの顔をすぐに認知することが発見された。誕生後は声と匂いと顔で赤ちゃんの脳にお母さんの情報が刻み込まれていく大事な時間なのである。新しい世界に参入した時にはすでに知っているものとの類似が必要になる。新しいものと古いものと関連づける方法がなければ脳がその情報を処理でなきいのだ。もしなければ、混乱と不安によって環境と相互作用する脳の発達と学習が損なわれる。
自然出産のウガンダの子どもは睡眠が少なく、長時間目覚めている。子どもは母親が忙しく働いている時でも好きな時に吊り帯かしょいこの中で眠り、母親は赤ちゃんの睡眠にまったく左右されない。いつでも子どもを連れて歩き、子どもと一緒に眠る。いつでも欲しい時には乳をのみ、敏感で注意深かった。ほとんど泣く事は無く、満ち足りていた。子どもが泣く前に、母親は事前に察知して、子どもの欲求をかなえるのである。子どもは安全な母親のもとで次々とあらわれる新しい刺激的な体験にはいって行く
現在、世界中で出産の医療化が進んでいる。インドも産婆が高齢化し病院出産が増えている。アフリカのウガンダでもヨーロッパ型の病院がつくられそこで生まれる赤ちゃんが増えて来た。病院で生まれた赤ちゃんは欧米と同じく二ヶ月半しないと笑わなかった。ストレスをあらわす副腎皮質ホルモンも二ヶ月半たっても高かった。赤ん坊はたっぷりと眠り、起きると泣いた。起こりっぽくカンがつよく、学習能力が低かった。
誕生後に母親から赤ちゃんを引き離すことは虐待されて傷ついた母子のきずなをつくる機会を奪ってしまう醜悪な行為だ。 現代のテクノロジー出産は生まれたばかりの赤ちゃんに、虐待、暴行、苦痛をあたえる残虐行為をあたりまえのこととしている。現代人はそれに気がつかないほど鈍感になっている。
自然出産とテクノロジー出産の赤ちゃんとは対照的だ。 テクノロジー出産の赤ちゃんは感覚遮断された保育器の中で孤独にされて育つ。人生で最初で最大の出生経験で疲れはて保育器の中で泣いても誰も答えない。 泣いても誰も答えてくれないと赤ちゃんは刺激に反応しなくなる。自閉症児が泣かないのは、泣いても無駄な事をすばやく学習してしまったからではないか。
テクノロジー出産で見捨てられた子どもは多くの睡眠を必要とする。目を覚ましやすく、目覚めるとひどく泣く。癒されてないので目が覚めている状態が耐えがたいのである。
眠っていないときに赤ちゃんは泣いている。お尻もぬれていないし空腹でもない。赤ちゃんはそれでも泣いている。それは不安と恐怖をつのらせ耐えがたいストレスに苦しんでいるのだ。そしてついには怒りとなって癇癪をおこす。激怒して泣く赤ちゃんをあやそうとするが手に負えない。今度は親自身の怒りが爆発する。理由はともあれ親は激しく泣く子どもをベットにおろす。赤ちゃんは再び見捨てられた事を学習する。その恐怖は刻み込まれて子ども時代に影を落とす。それが生に対する不安、無力感という感覚につながってゆく。
母親とのきずなを得る事ができない新生児は物質ときづなを結んでしまう。人間関係を結べず物質に執着してしまうのである。 物をいくら集めても決して本当の満足を得る事は出来ない。真に求めているのは母親の愛だからである。
Vol.8 魂の流浪者
最初に出生外傷が不安の源になると主張したのはフロイトだった。精神分析家のオットー・ランクは母の子宮からの分離を出生外傷として理論化し、のちにフロイトと袂を分かった。
世界中の神話には幼児追放という神話のモチーフが繰り返しあらわれる。オットー・ランクは70種類以上の神話を分析してその基本構造を次のように述べた。
1.英雄は、きわめて身分の高い両親のもとに生まれる。一般には王の血筋にあたる王子である。
2.彼の誕生には生まれるまえから困難が伴う。
3.予言によって、父親か父親に変わる人物によって子供が殺されるか捨てられる。
4.子供は、箱、かごなどに入れられて川に捨てられる。
5.子供は、動物とか身分のいやしい人々に救われる。彼は、牝の動物かいやしい女によって養われる。
6.大人になって、子供は貴い血筋の両親を見出す。この再会の方法は、物語によってかなり異なる。
7.子供は、生みの父親に復讐する。
8.子供は認知され、最高の栄誉を受ける。
この基本的パターンに類似する神話にモーゼ、アブラハム、イエス、サルゴン王、エディプス、ギルガメッシュ、クリシュナ、チャンドラグプタ、トリスタン、ジークフリート、ヘラクレスの物語などがある。
この幼児追放のモチーフはランクやユングによると迫害されている子どもの空想の中に共通して表れて来るという。
「迫害された子どもは親よりも自分が優秀で偉大な人間であると信じている。本当の自分は身分の高い、高貴な血筋をひいているのだが、今は追われてか棄てられている身である。身分の低い両親に育てられ、本当の両親として敬うように教えられている、と思い込んでいる。」
R・D・レインによると受精卵は子どもを表し、卵管は子どもが投げ込まれる河であり、子宮は子どもを受け止めてくれる存在を表しているという。幼児追放の神話は深層意識から浮上した物語ということになる。
人間の魂の起源にまつわる神話としてユダヤ、キリスト教の聖書の物語、エデンの園からの追放がある。エデンとはスピリチュアルなレベルでは一つに融合していた状態を表し、堕落とは物質的な肉体に閉じ込められることを意味する。個のレベルでは自我の分離が始まったのである。
トーマス・アームストロングによると幼児追放の神話はスピリチュアルな起源に関わる記憶に基づくという。英雄は人間の魂を表し、スピリット(高貴な両親)との合一から投げ出され、漂流しやがて陸地(肉体と言う物質)にたどり着く、長く苦しい試練をへて大人になり、魂はその高貴さ(スピリットに再び合一)を取り戻すのである。
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